
なぜ、あなたの「良い商品」は顧客に届かないのか…。
あなたは真面目に、そして誠実に事業へ取り組んでいるはずです。
誰にも負けない品質と心のこもった商品・サービスを提供している。
それなのに、なぜか事業は伸び悩み、顧客が増えない。
それどころか、競合との厳しい価格競争に巻き込まれてはいないでしょうか。
「良いものを作れば、いつか必ず認められるはずだ」。
そのように信じてきた想いが、揺らぎ始めているのかもしれません。
なぜ、あなたの努力と価値が、正しく顧客に届かないのでしょうか。
その答えは、商品の品質やあなたの情熱が不足しているからではありません。
問題は、あなたのビジネスの「戦い方」、そのものにあります。
より正確に言うならば、「戦う場所」の選択を間違えているのです。
私たちは、この事業の成否を分ける最も重要な意思決定を、「ポジショニング戦略」と呼んでいます。
本稿の目的は、ありふれた経営論を語ることではありません。
あなたがいかにして無意味な価格競争から抜け出すか。
そして、顧客から「あなたでなければならない」と熱望される存在になるか。
そのための、極めて実践的かつ本質的な思考法と手順をお伝えします。
これは、事業の規模や業種を問わず、全てのビジネスの根幹となるものです。
もしあなたが、日々の消耗戦から脱却する覚悟があるのなら、読み進めてください。
あなたのビジネスが、顧客にとって「唯一無二の価値」を放つための設計図が、ここにあります。
第1章:ポジショニング戦略の本質

ポジショニングという言葉を聞いたことがあるかもしれません。
多くの人はこれを、自社の立ち位置を決めることだと理解しています。
その認識は、決して間違いではありません。
しかし、その本質を捉えているとは言えないのです。
もし、あなたの事業が伸び悩んでいるとしたら、この言葉の本当の意味を理解する必要があります。
ポジショニング戦略の核心。
それは、「何屋になるか」を決めることではありません。
最も重要なのは、「“誰のための”何屋になるか」を定義することです。
この「誰のための」という視点が、あなたのビジネスの運命を左右します。
なぜなら、ここが全ての戦略の出発点になるからです。
考えてみてください。
「すべての人」を顧客にしようとすると、一体何が起こるでしょうか。
あなたの発信するメッセージは、誰にでも当たり障りのない、薄い内容になります。
また、特徴のないメッセージは、溢れかえる情報の中にすぐに埋もれてしまいます。
結果として、あなたの商品やサービスの価値は誰にも伝わらなくなります。
そして、顧客が判断できる唯一の基準は「価格」だけになってしまうのです。
これが、多くの真面目な事業者が陥る、価格競争という消耗戦の正体です。
一方で、「たった一人」の顧客を定めることから始めたらどうなるでしょう。
その一人が抱える、深く、切実な悩みを解決するためだけに事業を設計するのです。
あなたのメッセージは、その人の心に直接突き刺さる、鋭い言葉に変わります。
「これは、まさに私のための商品だ」と、顧客は強い共感を覚えるでしょう。
結果…。
あなたはその他大勢の業者ではなく、「私の問題を理解してくれる唯一の専門家」になるのです。
そうなった時、顧客にとって価格はもはや最重要事項ではなくなります。
なぜならば、あなたから買う「理由」が生まれるからです。
ここで、一つ、極めて重要なことをお伝えします。
ポジショニング戦略とは、何かを「付け加える」作業ではありません。
むしろ、その逆です。
それは、「捨てる」ことを決める、極めて勇気のいる意思決定なのです。
まずは、「すべての人」に喜んでもらおうという考えを捨ててください。
対応できない要望や、専門外の領域も、すべて捨てます。
あなたの価値を理解しない顧客に、時間を使うこともやめます。
この「戦略的に捨てる」という行為こそが、あなたの価値を最も際立たせるのです。
例えば、「何でも揃うレストラン」というお店があったとします。
便利かもしれませんが、特別な日に行きたいとは思わないでしょう。
では、「日本一辛い麻婆豆腐だけを出す専門店」ならどうでしょうか。
ほとんどの人は興味を示さないかもしれません。
しかし、激辛好きという特定の人にとっては、最高の場所です。
彼らは遠くからでも、高くても、その店を目指してやってきます。
これが、絞り込み、捨てることによって生まれる「強さ」なのです。
ポジショニングとは、単なるマーケティングの専門用語ではありません。
それは、あなたの事業のあり方を決める、最も重要な方針なのです。
そして、その方針は「誰を、どのように幸せにするか」という、顧客への深い理解から始まります。
次の章では、多くの事業者が陥りがちな、間違ったポジショニングの作り方を具体的に解説します。
第2章:間違ったポジショニング3つのパターン

ポジショニングの重要性をご理解いただけたかと思います。
しかし、良かれと思って設定したポジションが、実は成果を遠ざけていることが少なくありません。
意図せずに、自ら顧客を遠ざける「間違ったポジション」を選んでしまっているのです。
ここでは、多くの真面目な事業者が陥りがちな、典型的な3つの失敗パターンを解説します。
これらを知ることで、まずは自社の現状を客観的に診断できるようになります。
自分はどのパターンに当てはまっているか、冷静に確認してみてください。
パターン1:「何でもできます」というポジショニング
これは最も多く見られる、典型的な失敗パターンです。
「幅広いニーズにお応えします。」「どんなお悩みでもご相談ください。」
一見すると、とても親切で、お客さま思いのように聞こえるかもしれません。
しかし、ビジネスの世界では、このスタンスが最も選ばれなくなる原因になります。
なぜなら、顧客は「専門家」に問題を解決してほしいと常に考えているからです。
例えば、あなたが深刻な歯の痛みに悩んでいるとします。
その時、下記2種類の病院があるとします。
あなたは、どちらを選びますか?
- 「内科・外科・歯科」と書かれた病院
- 「歯周病専門医」と書かれた病院
おそらく、後者を選ぶのではないでしょうか。
悩みや課題が深刻であるほど、人はより専門性の高い存在を求めるのです。
また、「何でもできる」というメッセージは、裏を返せば「何も響かない」という印象を与えます。
これでは、その他大勢との違いがなくなり、結局は価格で比較されるしかなくなります。
たとえば…
「ホームページ制作から動画編集、SNS運用まで全て対応します」という制作者。
「肩こり、腰痛からダイエット、メンタルケアまで」という整体院。
こうした「何でも屋」のポジションは、専門性を求める顧客の選択肢から最初にはずされてしまいます。
あなたが提供する価値は、本来もっと高いはずです。
勇気をもって「やらないこと」を決めてください。
あなたの知識や技術が、最も輝く領域に絞り込むこと。
それが、専門家として選ばれるための第一歩になります。
パターン2:スペックに特化したポジショニング
自社の商品や技術に、強い自信と誇りを持っている方に多いのがこのパターンです。
「他社より高性能です」「業界最安値です」といったアピールです。
商品の機能、性能、価格といった、数値で比較できる要素だけで戦おうとしてしまいます。
しかし、この戦い方は、中小企業や個人にとって非常に危険な道です。
なぜなら、それはリソースの豊富な大企業が最も得意とする戦い方だからです。
考えてみてください。
価格の安さで勝負を挑んでも、より大きな資本を持つ競合が現れれば、すぐに負けてしまいます。
機能の高さで勝負しても、その技術はあっという間に模倣され、優位性は失われます。
そもそも、顧客は機能そのものが欲しいわけではありません。
その機能を使うことで得られる「快適な未来」や「気分の高揚」にお金を払うのです。
「他社より容量が10GB多い」と言われても、ほとんどの人はその価値を実感できません。
「業界最安値」という言葉は、「安かろう悪かろう」という不安を顧客に与えることすらあります。
この消耗戦から抜け出す方法は、ただ一つです。
機能や価格といった「事実」ではなく、それがもたらす「価値」を語ることです。
「なぜ、この機能が必要だったのか」という開発の背景。
「このサービスを受けた顧客の人生が、どのように変わったのか」という物語。
顧客が本当に求めているのは、そうした感情を動かす情報なのです。
スペック表を眺めるのをやめて、顧客の未来を語ることから始めてみてください。
パターン3:自分が売りたいものを売るポジショニング
これは、職人気質で、強いこだわりを持つ専門家ほど陥りやすい罠です。
自身の信念やこだわりが強すぎるあまり、市場や顧客を無視し、お客様から本当に求めていることから離れていってしまう状態です。
「これが、私の作りたい提供したい商品だ。」
「この価値が分からない方がおかしい。」
そのように感じ始めたら、直ちに考えを見直す必要があります。
ビジネスは、芸術活動ではありません。
顧客が抱える問題を解決し、その対価として報酬をいただく活動です。
つまり、「良いもの」の定義を決めるのは、作り手であるあなたではなく、お金を払う顧客なのです。
どんなに最新の技術を駆使しても、それが顧客にとって使いにくければ意味がありません。
どんなに最高の素材を使っても、顧客の予算と合わなければ、商品は売れないのです。
例えば…
WEBの知識がない顧客に対して、最新技術を詰め込んだ高機能なホームページを納品したとします。
制作者としては満足感が高いかもしれません。
しかし、顧客はそれを使いこなせず、更新もできずに放置してしまうかもしれません。
これは、作り手の自己満足が、顧客の不利益を生んでしまった典型例です。
あなたの「こだわり」と、顧客が「お金を払ってでも解決したい悩み」。
その二つが重なり合う点にしか、ビジネスの成功は存在しません。
そのためには、定期的に顧客の声に耳を傾ける必要があります。
そして、自分の立ち位置を客観的に見直す謙虚さが不可欠です。
以上、これら3つのパターンに共通する問題点は、ただ一つです。
それは「顧客を深く見ていない」という点に尽きます。
次の章では、これらの罠から完全に抜け出すための具体的な方法を解説します。
自社の「本当の価値」を見つけ出す方法のご紹介。
そして、価値を求める顧客に届けるための、実践的なワークに入りましょう。
第3章:【実践ワーク】唯一無二のポジションを確立する3ステップ

ここからは、机上の空論を終え、具体的な行動に移ります。
第2章で解説した「間違ったポジショニング」の罠から抜け出すための、再現性の高い3つのステップをご紹介します。
これはコンサルティングの現場でも用いる、極めて実践的なフレームワークです。
このワークを一つずつ丁寧に進めることで、あなたの会社が進むべき道が明確になるでしょう。
まずは、全ての土台となる「自己分析」から始めます。
ステップ1:己を知る
ポジショニング戦略の出発点は、競合や市場といった外部の分析からではありません。
あなた自身の内側にある「価値の源泉」を深く理解することから始まります。
しかし、驚くほど多くの人が、自社の本当の強みを正しく認識できていません。
「強み」とは、単に「得意なこと」や「他社より優れているスキル」を指すのではありません。
ビジネスにおける本当の強みとは、「顧客に独自の価値を提供し、喜ばれる能力」のことです。
これから挙げる5つの質問に、じっくりと時間をかけて答えてみてください。
この作業を通じて、あなた自身も気づいていない、事業の核となる価値が必ず見えてきます。
見栄を張る必要はありません。
正直な言葉で、紙に書き出すことをお勧めします。
質問1:なぜ、あなたはこの事業を始めたのですか?
すべての物語には、始まりの「第一歩」があります。
お金を稼ぐという目的以外に、何があなたをこの道へ突き動かしたのでしょうか。
あなたが過去に経験した、悔しさや不便さ。
「もっとこうだったら良いのに」と感じた、世の中に対する問題意識。
その事業の原点には、あなたが解決したいと強く願った「誰かの課題」が隠れているはずです。
その個人的な動機こそが、顧客の共感を呼ぶ、あなただけの独自のストーリーになります。
質問2:これまでの顧客に、最も感謝されたことは何ですか?
自分の思う「強み」と、他人が評価してくれる「価値」は、しばしば異なります。
あなたが当たり前だと思って提供していることの中に、顧客が感動するポイントが眠っています。
これまでお客さまから言われた「ありがとう」という言葉を、できるだけ具体的に思い出してください。
「説明が丁寧で分かりやすかった。」
「迅速な対応で助かった。」
「あなたに頼んで本当に良かった。」
それらの言葉は、あなたのサービスが提供している「客観的な価値」を教えてくれます。
質問3:お金をもらわなくても、ついやってしまうことは何ですか?
努力や苦労を感じることなく、時間を忘れて自然に取り組んでしまうことはありませんか。
例えば、頼まれてもいないのに、つい業界の最新情報を調べてしまう。
あるいは、友人や知人から、いつも同じような相談を持ちかけられる。
そうした無意識の行動は、あなたの才能が最も発揮される領域を示唆しています。
ビジネスとは直接関係ない趣味や関心事でも構いません。
そこに、あなたのユニークな強みのヒントが隠されている可能性は非常に高いのです。
質問4:「これだけは譲れない」と感じる仕事の流儀は何ですか?
仕事を進める上で、あなたが無意識に守っている「自分だけのルール」は何でしょうか。
「お客さまの話は、最低でも1時間聞くことにしている。」
「どんなに小さな仕事でも、必ず二重にチェックする。」
「専門用語を使わず、中学生でも分かる言葉で説明する。」
一見すると非効率に見えるような、そのこだわり。
それこそが、あなたの誠実さや専門性を裏付ける強力な証拠となり、他社との「違い」を生み出します。
質問5:もし全てを失っても、明日からまた同じ仕事を始めますか?
これは、あなたの覚悟を問う、少し厳しい質問かもしれません。
仮に、これまでの実績や顧客をすべて失ったとしても、あなたは再び同じ仕事を始めたいと思うでしょうか。
この質問に、心の底から「YES」と答えられるのであれば、その事業はあなたにとって天職です。
では、なぜ「YES」なのでしょうか。その理由を深く掘り下げてみてください。
その答えこそが、あなたのビジネスを生涯にわたって支え続ける、最も強力なモチベーションの源泉なのです。
これらの質問への答えを書き出すことで、単なるスキルのリストではない、あなただけの「価値の設計図」が見えてきたはずです。
それが、次の市場分析に進むための、揺るぎない羅針盤となります。
ステップ2:市場を分析する
ステップ1で、あなたは自分自身の価値の源泉を掘り起こしました。
次は、その価値を「どこで」活かすべきかを見極める段階に移ります。
それが、市場分析です。
ただし、ここで言う市場分析とは、競合を打ち負かすためのものではありません。
その目的は、競合と戦う必要のない、あなただけの「ポジション」を見つけることにあります。
無駄な争いを避け、賢く勝つための、冷静な情報収集を行いましょう。
誰でも、今すぐ無料で始めることができる具体的な情報収集方法を2つお伝えします。
調査方法1:顧客になりきって検索する
もしあなたが顧客だったら、どんな言葉で自分の悩みを検索しますか。
例えば、「横浜市 税理士 相談しやすい」や「Webサイト制作 個人事業主」といった具合です。
できるだけ具体的なキーワードをいくつか思い浮かべて、実際に検索してみてください。
そして、検索結果の1ページ目に出てきた競合のホームページを、最低でも5つはリストアップします。
これが、あなたが今いる市場の「ライバル社」となります。
調査方法2:SNSで「生の声」を探す
SNSは、顧客の不満や要望といった「本音」が溢れる宝の山です。
X(旧Twitter)やInstagramなどで、あなたの事業に関連するキーワードやハッシュタグを検索します。
ここで見るべきは、競合の宣伝文句ではありません。
見るべきは、サービスを利用した顧客の、リアルな感想です。
「ここのサービスは〇〇なのが残念だった」という不満。
「もっと〇〇だったら良いのに」という要望。
これらのネガティブな声の中にこそ、あなたが提供すべき価値のヒントが隠されています。
競合が満たせていない顧客のニーズを、一つひとつ丁寧に拾い集めてください。
以上の2つの調査方法で得た情報をもとに、次の4つの視点で情報を整理していきましょう。
4つの視点でポジションの分析をする
集めた情報を、ただ眺めているだけでは意味がありません。
次の4つの視点を持って、情報を整理し、分析することで初めて「勝機」が見えてきます。
視点1:競合は「誰に」向けて商売をしているか?
競合のホームページは、どんな人に語りかけているように見えますか。
大企業向けなのか、個人向けなのか。初心者向けなのか、上級者向けなのか。
彼らがターゲットにしている顧客層を、できるだけ具体的に推測します。
もし、多くの競合が同じ層を狙っているのであれば、そこに参入するのは得策ではありません。
逆に、彼らが見過ごしている「まだ誰も相手にしていない顧客層」がいるかもしれません。
視点2:競合は「何を」強みとして打ち出しているか?
競合は、自社のサービスの何を一番にアピールしているでしょうか。
「価格の安さ」「実績の豊富さ」「技術力の高さ」など、そのメッセージを正確に読み取ります。
全ての競合が「価格」で勝負している市場なら、あなたは「品質」や「丁寧さ」で勝負できる可能性があります。
競合の強みを冷静に分析することで、あなたがアピールすべき「違い」が明確になります。
視点3:競合は「いくらで」価値を提供しているか?
競合の料金表を見て、サービスの価格帯を把握します。
高価格帯のサービスばかりであれば、シンプルな機能に絞った手頃なプランに需要があるかもしれません。
逆に、低価格帯の競争が激しいなら、手厚いサポートを付けた高価格なプランが求められている可能性もあります。
市場の価格相場を知ることで、あなたのサービスに最適な値付けのヒントが得られます。
視点4:競合が「提供していない」ものは何か?
これが、最も重要な視点です。
競合のサービス内容や顧客の声を見ていく中で、「なぜこれがないのだろう?」と感じることはありませんか。
例えば、
どのWEB制作会社も「作ること」はアピールしているが、「作った後の運用サポート」には誰も触れていない。
これこそが、市場に存在する「空白」であり、あなたが狙うべきポジションの最大のヒントです。
競合がやっていないこと、言っていないこと。
そこに、あなたの勝機が眠っています。
このステップでやるべきことは、競合の真似をすることではありません。
競合を徹底的に知ることで、競合と全く違う土俵に上がる準備をすることです。
ステップ1で見つけた「あなたの強み」と、このステップ2で見つけた「市場の空白」。
この二つが重なり合う点こそが、あなたが立つべき、唯一無二のポジションなのです。
ステップ3:ポジションを言語化する
ステップ1で「己の強み」を理解し、ステップ2で「市場の空白」を発見しました。
最後のステップは、これら二つの要素を掛け合わせ、あなたの事業が立つべき場所。
すなわち「ポジション」を明確に言語化することです。
これは、あなたのビジネスの未来を決定づける、最も重要な宣言となります。
ここで定めるポジションが、今後のあなたの活動全ての指針になるのです。
ポジショニングの具体的な作り方
まずは、「ポジショニング・ステートメント」という型に沿って、あなただけのポジションを作ります。
「ポジショニング・ステートメント」とは、事業の核となる方針を、簡潔な一文で表現するものです。
あなたのビジネスについて、社内外を問わず、「私たちは何者で、誰のために、何をするのか」を明確に示すための、極めて重要な宣言文だとご理解ください。
まずは、下記の型に当てはめてポジションを言語化してください。
(A:ターゲット顧客)向けの(B:サービスカテゴリー)である、
私のサービスは、(C:提供する独自の価値)によって、
(D:競合との明確な違い)を実現する、唯一の存在です。
この文章を、ただの穴埋め問題だと思わないでください。
一語一語に、あなたの戦略と覚悟を込める必要があります。
それぞれの項目を、具体的に見ていきましょう。
A:ターゲット顧客 | 「〇〇に悩むすべての人」といった、曖昧な表現では意味がありません。 あなたが、最も深く共感でき、最も情熱を注いで救いたいと願う、たった一人に絞り込んだ人物像を具体的に描いてください。 |
---|---|
B:サービスカテゴリー | あなたは、顧客から見て「何屋」なのでしょうか。 「ホームページ制作者」「経営コンサルタント」「整体師」など、あなたの事業が属するカテゴリーを明確にします。 |
C:提供する独自の価値 | ステップ1で見つけた「あなたの強み」を、顧客の言葉に翻訳する作業です。 顧客が、あなたの商品やサービスから得られる、最も重要なメリットや約束は何でしょうか。 「専門用語を一切使わない、分かりやすい説明」 「納品後も3ヶ月間、無料で相談できる手厚いサポート」 「あなたのビジネスの想いを形にする、丁寧なヒアリング」 スキルや機能ではなく、顧客が感じる「安心感」や「満足感」を言葉にしてください。 |
D:競合との明確な違い | ステップ2で見つけた「市場の空白」を、あなたの言葉で表現します。 「ただ作るだけの制作会社」とは違い、「事業の成功まで伴走するパートナー」である。 「安さだけを売りにするコンサル」とは違い、「あなたの会社のファンを作る戦略」を授ける。 このように、「〇〇とは違い」という形で競合を定義することで、あなたの独自性がより際立ちます。 これは、競合を否定するためではありません。 顧客が選択に迷わないよう、親切に違いを教えてあげるための行為なのです。 |
ポジショニングを完成させ行動を開始する
さあ、全ての要素が出揃いました。
これらを繋ぎ合わせ、あなただけのポジショニング・ステートメントを完成させてください。
例えば、このようになります。
「(A:創業3年以内で、WEB知識はないが熱意はある個人事業主)向けの、(B:集客の仕組みを構築する専門家)である私のサービスは、(C:あなたのビジネスへの想いを形にする丁寧なヒアリング)によって、(D:ただ作るだけの制作会社とは違う、事業の成功まで伴走するパートナー)となる、唯一の存在です。」
どうでしょうか。
この一文を定めるだけで、あなたが誰のために、何をすべきかが明確になったはずです。
明日から発信するSNSの内容も、ホームページに書くべき言葉も、全てがこのポジショニング・ステートメントから導き出されます。
もう、あなたは迷うことはありません。
これが、あなたのビジネスの核となるのです。
次の章では、この定めたポジションを、具体的なWEBサイトでどう表現していくかを解説します。
第4章:ポジショニングを「選ばれる言葉」に変換する

あなたは今、自社の進むべきポジションという名の「設計図」を手にしています。
設計図そのものは、論理的で正確です。
しかし、そのままでは顧客の感情に訴えかける力はありません。
顧客の心を動かすのは、その設計図から生み出される、熱量のある「言葉」です。
この最終章では、定めたポジションを、顧客から「あなたでなければならない」と選ばれるための、強力なメッセージへと変換する必要があります。
これは、あなたの事業活動すべてを貫く、コミュニケーションの核となるものです。
ここからは、その設計図を、顧客が主役の「物語」へと翻訳していく作業です。
そのために、誰でも使えるメッセージ変換の型(テンプレート)をご紹介します。
メッセージ変換の型
①呼びかけ | 〇〇なあなたへ。 ※ターゲット顧客が抱える、最も深刻な悩みや願望をストレートに投げかける。 |
---|---|
②共感 | △△なのに、□□だと感じていませんか? ※ターゲットの具体的な状況や、心の内に秘めた感情に寄り添い、「私のことだ」と思わせる。 |
③解決策の提示 | 私たちは、そんなあなたのための◇◇(サービス名など)です。 ※悩みを解決できる存在として、自社を位置づける。 |
④価値と違いの宣言 | 多くの××とは違い、私たちは☆☆によって、あなたを■■という未来へ導きます。 ※競合との明確な違いを述べ、顧客が得られる理想の未来を具体的に約束する。 |
この型に沿って言葉を組み立てるだけで、論理的な設計図が、人の心を動かすメッセージに変わります。
実際に、第3章で作った例文を使って変換してみましょう。
▼ビフォー(設計図):ポジショニング・ステートメント
(A:創業3年以内で、WEB知識はないが熱意はある個人事業主)向けの、(B:集客の仕組みを構築する専門家)である私のサービスは、(C:あなたのビジネスへの想いを形にする丁寧なヒアリング)によって、(D:ただ作るだけの制作会社とは違う、事業の成功まで伴走するパートナー)となる、唯一の存在です。
▼アフター(物語):顧客に届けるメッセージ
【①呼びかけ】
「良いサービスには自信がある。でも、どう広めればいいか分からない」そんな創業期のあなたへ。
【②共感】
誰にも負けない熱意があるのに、WEBが苦手というだけで、お客さまに価値が届かない。そんな悔しい思いをしていませんか?
【③解決策の提示】
私たちは、そんなあなたの「情熱」を「集客の仕組み」に変える、伴走型のパートナーです。
【④価値と違いの宣言】
多くの制作会社のように、ただホームページを作るだけではありません。
私たちは、あなたのビジネスに懸ける想いを深く理解し、事業が軌道に乗るその日まで、あなたの隣で汗を流すことを約束します。
どうでしょうか。
後者の方が、ターゲットの心に直接語りかけ、強い共感と信頼を生むことがお分かりいただけるかと思います。
それでは、この変換を前提として、メッセージを構築する上での3つの重要原則を解説します。
原則1:事実ではなく「意味」を語る
顧客が知りたいのは、あなたのサービスが持つ「機能(スペック)」ではありません。
その機能が、自分の人生にどのような「意味」をもたらすのか、ということです。
例えば、「高性能なカメラを搭載しています」という事実は、顧客の心に響きません。
しかし、「このカメラがあれば、二度と戻らないお子さまの成長の瞬間を、まるで昨日のことのように鮮やかに残せます」と語れば、それは単なる機能から「感動的な価値」へと変わります。
あなたのポジションも同様です。
第3章で定めた「ポジショニング・ステートメント」を、そのまま顧客に伝えても意味はありません。
それは、あくまで社内向けの設計図だからです。
あなたが語るべきは、そのポジションを選んだ「理由」や「背景」です。
「なぜ、あなたはそのターゲット顧客を救いたいと強く願うのか」
「なぜ、あなたはその独自の価値を提供することに、人生をかけているのか」
第3章のステップ1で掘り起こした、あなたの個人的な体験や想い。
その「意味」こそが、顧客の共感を呼び、あなたから買う理由となるのです。
あなたの事業が持つ意味を語ることから始めてください。
多くの事業者が、自社のことばかりを語ってしまいます。
「私たちは、こんなに素晴らしい技術を持っています。」
「私たちは、こんなに素晴らしいサービスを提供しています。」
これらは素晴らしいことです。
ただ、それだけを伝えても顧客の心はなかなか動きません。
なぜなら、顧客が本当に知りたいのは「自分にとってどう良いのか?」その一点だけだからです。
自社の特徴をただ伝えるのでは不十分。
その特徴が顧客にとってどんな素晴らしい未来をもたらすのか。
必ず「価値」に変換して語りかけることから始めてください。
(事実)創業50年の歴史があるからこそ、(価値)私たちは、あなたと同じような悩みを抱える1000人以上のお客さまを笑顔にしてきた実績と自信があります。
このように、常に顧客のメリットを主役にして伝えることを意識しましょう。
原則2:主語を「あなた」から「お客さま」へ転換する
多くの事業者が、自社のことばかりを語ってしまいます。
しかし、顧客が本当に聞きたいのは、あなたの自慢話ではありません。
彼らが聞きたいのは、「自分自身の物語」です。
あなたのメッセージは、常に顧客が主役でなければなりません。
この原則を実践する、極めて簡単な方法があります。
それは、あなたが発信する文章の主語を「私(たち)は」から「あなた(お客さま)は」に意識的に書き換えることです。
どうでしょうか。
後者の方が、自分ごととして価値を感じやすいはずです。
あなたのビジネスは、顧客という名の主人公が、理想の未来にたどり着く物語を助ける「案内人」の役割です。
原則3:核を一つに絞り、究極の一言で言い切る
あなたには、伝えたいことが山ほどあるはずです。
しかし、一度に多くのことを伝えようとすると、結局何も伝わらなくなります。
だからこそ、あなたのメッセージは、常に「一つ」に絞り込む必要があります。
あなたの「ポジショニング・ステートメント」の中で、最も強力で、最も顧客の心に響く「核」となる要素は何でしょうか。
それを一つだけ選び抜き、繰り返し伝えることが重要です。
さらに、その絞り込んだ核は、名刺や肩書に使える「究極の一言」にまで磨き上げることができます。
自己紹介で「〇〇です」と言った瞬間に、「詳しく話を聞かせてください!」と思わせる、強力なフックになる言葉です。
そのための、シンプルな3つの型をご紹介します。
キャッチコピー作成の3つの型
- 型①:「(ターゲット顧客)専門の、〇〇」
- 最もシンプルで強力な型です。誰のための専門家なのかを明確に宣言します。
- 例:「熱意ある個人事業主専門の、伴走型WEB戦略パートナー」
- 型②:「(顧客の理想)を叶える、〇〇の専門家」
- 顧客が得られる未来を主役にする型です。あなたのサービスで何が実現するのかを示します。
- 例:「ビジネスの『想い』を集客に変える専門家」
- 型③:「“(競合がやること)”をしない、〇〇」
- 競合との「違い」を際立たせる型です。常識へのアンチテーゼで強い興味を引きます。
- 例:「“作って終わり”にしない、WEB戦略パートナー」
これらの短いキャッチコピーは、あなたの「顔」となります。
名刺、ホームページ、SNS、全ての場所で、その一つのメッセージを繰り返し伝えることが重要です。
「あの会社といえば、〇〇だよね」
顧客の頭の中に、このシンプルな等式が生まれた時、あなたのポジションは市場に浸透したと言えるでしょう。
多くのことを語りたい誘惑を断ち切り、たった一つの、しかし最も鋭い言葉を磨き上げてください。
その一貫性と集中力こそが、あなたの言葉に、他を圧倒する力を与えるのです。
まずは、そのたった一つの核となるメッセージを決めてください。
そして、名刺、ホームページ、SNS、全ての場所で、その一つのメッセージを、表現を変えながら繰り返し、繰り返し伝えることが重要です。
おわりに:戦略なき戦術は、敗北への最短距離である
ここまで、長い時間をかけて読み進めていただき、本当にありがとうございます。
本稿でお伝えしてきたのは、小手先のマーケティングテクニックではありません。
あなたのビジネスの根幹を支える、最も重要な「戦略」の話です。
多くの人が、日々の戦術(ブログ更新、SNS投稿など)に追われています。
そして、このポジショニング戦略の重要性を見過ごしてしまいます。
しかし、どれだけ懸命に船を漕いだとしても、向かうべき方角が間違っていては、決して目的地にはたどり着けません。
戦略なき戦術は、敗北へと向かう最短距離を全力で走っているのと同じなのです。
正しいポジションを定め、そこから一貫したメッセージを発信する。
そうすれば、あなたの一つひとつの行動が、驚くほど効果を発揮し始めるのを実感するでしょう。
これまでと同じ努力でも、得られる成果が全く違ってくるのです。
なぜなら、あなたの全ての活動が、一つの明確な目的に向かって、無駄なく連携し始めるからです。
今日、この記事を読み終えたあなたが、まず手に入れるべきは新しいツールやノウハウではありません。
それは、自らの事業を、顧客を、そして市場を、これまでとは全く違う視点で見つめる「新しい目」です。
もし、まだ少しでも迷いや不安があるのなら、もう一度、第3章のワークに戻ってみてください。
そして、あなただけの「ポジショニング・ステートメント」を、たった一文で紙に書き出してみてください。
それが、明日からのあなたの全ての行動を支える、揺るぎない土台となります。
ポジションを定めることは、多くの顧客を「捨てる」という、痛みを伴う決断かもしれません。
しかし、それは同時に、あなたが本当に価値を届けたい「たった一人の顧客」と、深く出会うための、唯一の道でもあります。
その他大勢から愛されることをやめた時、あなたは、特定の人から熱狂的に愛される存在になるのです。
あなたの誠実な努力が、正しく評価され、真にそれを必要とする顧客に届く。
そのための設計図は、もうあなたの手の中にあります。
さあ、今すぐ、その最初の一歩を踏み出してください。